PBPレポート#2は出国から出走直前までの過ごし方について。慣れない環境ではあるが、1200 km走れるコンディションを整えておくための大事な期間。PBPはもう始まっている。
#1 事前準備編はこちら。
出走前々日: 現地入り
国際線搭乗の前には、チェックイン、荷物預け、保安検査と時間のかかる作業が多い。さらに今回は自転車という大きな荷物もあるので、出発3時間前を目安に羽田に向かうことにした。自宅から羽田まではタクシーを予約。料金が変わらなかったためバンタイプの車両を予約した。荷物を積み込み、朝の首都高へ。ちょうど明るくなり始めた空を見つつ期待に胸を膨らませる。
5時過ぎ、羽田空港第3ターミナルに到着。手荷物カウンターはまだ開いていなかったが、すでに輪行箱を持った人が数名並んでいた。チェックインを済ませて列に並ぶ。しばらく待っているうちに続々と参加者と思しき人が集まってきた。列が動き始め、続々と輪行箱が預けられていく。中には重量ギリギリで追加料金を免れた人も。私の輪行箱はサイズがギリギリだが、果たして無事に預かってくれるだろうか?
さすがに大型荷物を持った人がこれだけの人数いるので、列の進みはかなり遅い。1時間ほど待っただろうか、やっと自分の番が回ってきた。なんとか超過料金なしで自転車を預け入れることに成功し、チェーンオイルやバッテリー類には特に何も言われることなく保安検査場を抜けた。空港にかなり早めに着いたわりには、ゲート到着は出発の1時間前。もし空港到着が遅れていたらかなり焦っていただろう。
換金レートはあまり良くないらしいが、面倒なので羽田でユーロに両替しておいた。3万5千円ほどで200ユーロ。フランスでは基本的にはどこでもクレジットカードが使えるそうだが、PCなどでは現金しか使えない場合があるようなので、必要最低限を両替した。
それにしてもPBP参加者が多い。搭乗ゲート前ではPBP勉強会でご一緒した方とお会いした。機内に入ってからも周囲はほとんど参加者の方で、隣の席の方は去年からブルベを始められて今回のPBPに参加するとのことだった。
往路は北極圏を経由する15時間のフライト。朝早かったため、離陸してすぐに寝落ちしてしまった。映画を見たり寝たりを繰り返しながら時間を潰し、気づくとパリ上空に。今回の旅で最初で最後のエッフェル塔を空から拝んだ。
シャルル・ド・ゴール空港に到着。気温は特に暑くも寒くもなくちょうどよい感じだった。特に何も聞かれることなく入国審査をパス。30分ほどして、ボストンバッグがターンテーブルから流れてきた。輪行箱はその脇のスペースで順次返却されており、自分の真緑の輪行箱も無事返却された。パッと見たところ破損等はなさそうだ。
荷物回収に思ったより時間がかかってしまった。輪行箱を載せたカートを押してタクシーとの待ち合わせ場所に向かう。さっきまでPBP参加者をたくさん見かけたのは、どうもツアーで予約している方が多かったようで、ほとんどの人は貸切バスの乗り場へと流れていったためここでお別れとなった。
かなり余裕を見て飛行機到着の1時間後で予約していたが、待ち合わせ場所に到着したのはほぼぴったりの時刻だった。予約したのはフランス国内大手のG7タクシー。Uberでも良かったのだが、往路ということでトラブルを避けるためにもここを選んだ。事前にネット予約で行き先のホテルの住所やクレジットカードの番号を登録しておけたので、その場でバタバタすることもなくスムーズに利用できた。ここからランブイエのホテルへは2時間ほど。180ユーロ、3万円弱かかったが、スリや移動時の破損のリスクを考えると妥当な出費だろう*1。
しかしやはり日本のタクシーのようなかしこまった雰囲気は皆無で、「ガソリン切れそうだから入れていっていいか?」と聞いてきたり、「すまん! クレジットカード忘れたから貸してくれ! あとで運賃から引いとくから!」といった具合で、逆に緊張が解けた。このとき運転手に聞いたのだが、やはりここ1週間ほどは熱波が来ているらしく、例年よりも暑いらしい。実際車内もエアコン無しでは少し暑く*2、窓を開けて風が入ってくると気持ち良いぐらいだった。
ベロドロームで有名なサン・カンタン・アン・イヴリーヌを抜け、ランブイエの街に到着。ホテルの場所までたどり着いたが、どうも様子がおかしい。外壁には足場がかかっており、なんなら現在進行系で工事が行われている。このホテル、本当に営業しているのか……? 少し不安に思いつつも、さっきのガソリン代を差し引いたタクシー代を支払い、荷物を抱えて建物に入る。すみません、フロントはどこですか? と工事のお兄さんに聞くと、受付の人を呼んできてくれた。予約はちゃんと取れていたようだ。ルームキーを受け取って部屋に向かう。
余談だが、国によって階数の数え方はまちまちだ。ルームキーを受け取った際に部屋は1st floorだと言われたので、1階の客室の廊下に出てみたのだが、部屋案内に自分の部屋番号がない。そういえば1st floorが2階を意味する国もあったような……と中学英語のかすかな記憶を思い出し、階段を登ってみると、確かに2階に部屋があった。所見だとかなり混乱するが、ともあれ思い出せてよかった。
余談ついでに、フランス語は語頭のhを発音しないが、その癖が英語で話していても出てしまうのか、タクシー運転手はhumidをユーミッドと発音していたし、フロントの人もheavyをエヴィーと発音していた。それ以外の英語は比較的聞き取りやすいのだが、h始まりの単語だけ異様に聞き取り難易度が高かった。
そんなこんなで部屋に入り荷物を置く。時刻は19時頃だが、外はご覧の明るさ。先に食料の買い出しに行けばよかったのだが、この明るさのせいかまだ時間に余裕があるような気がして、バイクの組み立てを始めてしまった。
ドキドキしつつ輪行箱を開封すると、多少シェイクされた形跡はあれど、特に目立ったダメージはなさそうで安心した。チェーンオイルがシーツに付かないよう注意しながら取り出し、ビニール紐をほどきながら組み立てていく。厳重な養生のお陰で傷も歪みもなさそうだ。ドライブトレインを仮組みし、後輪を取り付けたその時。明らかなガタを感じた。クイックの締め込みが甘かったかと思い締め直すも改善せず、ホイールを一旦外して一つずつ確認してく。フリーハブが浮いているわけでもない。となるとハブの玉押し? これが正解だった。玉当たり調整をして締め直すと見事にガタは消え去った。以前同じVisionのホイールのハブメンテナンスをしたことがあり、その時の経験が生きた。やはり一度自分で触っておくと、いざというときに対処できる幅が広がって良い。
そんなこんなで無事自転車が組み上がり、確認ついでに夕食を買いに出かけた……のだが、お店はどこも閉まっていた。それもそのはず、これだけ明るいのに時刻はすでに21時なのだ。大体のお店は20時に閉店のため、明るさに油断していると食料難民になるということを身をもって学んだ。結局小さなスーパーが遅くまで開いていたためそこで夕食を買ったのだが、あまり口に合わなかった。この日は移動と組み立てで疲れたので、さっとシャワーを浴びて日付が変わるぐらいには就寝した。
出走前日: 事前受付と記念撮影
ホテルの朝食バイキングが10時までということで、8時頃に起床。やはりPBP参加者が多数宿泊しているようで、廊下からラチェットのチチチチチ……という音が響き渡ってくる。明らかに建設途中な別棟を横目に朝食会場に入ると、PBP勢と思しき日本人の方お2人が先に入られており、ご親切にもご一緒させていただけた。お一人は熟練ランドヌールの方で、もうお一人は私と同じく今回初参加とのこと。同じホテルに日本人の方がいらっしゃると思うと心強い。お2人は先に事前受付に行かれるとのことで、お礼を言って別れた。
朝食はバゲットやクロワッサン、ハムとチーズにヨーグルトといった、いかにもフランスっぽい内容。事前情報通り野菜はまったく無かったため、プルーンや杏、果物の盛り合わせをビタミン源として意識的に摂っておいた。
今日はお昼からAudax Japanさんの記念撮影、その後にAJたまがわさんの記念撮影がある。事前受付はその間に済ませるつもり。外の雲行きが怪しかったので、フランス版雨雲レーダーを確認すると、12時過ぎからは晴れてくる予報だった。急ぐ必要もないので直前までベッドでゴロゴロ。優雅だ。
Audax Japan記念撮影
12時半頃にホテルを出発し、ランブイエ城前に到着。すっかりPBPムードに染まり切っていた。押し歩きで石畳を抜けると、日本人参加者の方々がすでに集まっていた。フォロワーさんと挨拶をしつつ、流れに乗ってランブイエ城へと移動。天気はすっかり晴れていた。
お城の前の庭園まで移動してくると、明らかに過積載なランドヌールが一人……そう、今年のFlècheで一緒に走ったきんちゃんさんだ。PBP前にヨーロッパ観光と称して、ドイツから1000 km近く自走してきたという。やはりランドヌールは思考回路がおかしい……。さすがにこの出で立ちなので、国内外の参加者の方からも大注目を集めていた。
実はギリギリ間に合ってました。
— きんちゃんnext RAA (@ginrinfighter) August 19, 2023
明日から頑張ります。 pic.twitter.com/SSPnIQZOOt
— AudaxJapan (@AudaxJapan) August 19, 2023
記念撮影には100人以上いただろうか。これまでのブルベをほとんどN2BRMで走ってきた身としては、これだけ日本にランドヌール・ランドヌーズがいたのだということが驚きだった。そして、これだけの人々が遠いフランスの地に走りに来ているということ、私もその一員であるということに連帯感を感じ、勇気づけられた。
事前受付
記念撮影後、きんちゃんさんとともに事前受付に向かう。受付場所はランブイエ城から1.5 kmほど離れた場所にあり、専用の駐輪場にはリカンベントやタンデム自転車の他、ベロモービルも複数台停まっていた。受付書類とパスポートを提出して受付を済ませる。このときにもらえるものは
- ブルベカードとブルベカードポーチ
- フレームバッジ、フロントゼッケンと結束バンド
- ヘルメット用ナンバーシール
- (購入した場合)記念ジャージと公式反射ベスト、食事チケット
- 記念ボトル、矢印看板のレプリカ、ナップサック
- ビニール製リストバンド
で、リストバンドはこの時点で腕に巻かれた。フレームバッジとゼッケンもこの段階で装備しないと駐輪場を出られない仕組みになっており、かなりセキュリティがしっかりしている印象を受けた。また、ブルベカードには緊急時連絡先・顔写真添付の欄があり、確かにこれを記入・添付せよと言われた気がするのだが、後から他の人に聞くと別になくても良かったらしい*3。
AJたまがわ記念撮影
たまがわさんの記念撮影のため、再びランブイエ城に戻ってきた。たまがわさんのブルベは300センテニアル、鬼怒川600、石廊崎400と、何度かお世話になっている。特に石廊崎400はPBP練習ブルベと副題がつくもので、ゴール受付では今回のPBPに向けていろいろとアドバイスをいただいた。そんなご縁もあり、記念撮影にお邪魔することにした。現地で待っていると、水色のたまがわジャージを着た方々が見えたので合流。参加者の方々にご挨拶もできた。
昨日はお集まりいただいた方ありがとうございました!
— AJたまがわ (@ajtamagawa) August 20, 2023
みなさんの安全をお祈りしています。(ぜ) https://t.co/744MSCbF0w pic.twitter.com/Foy7qYeFLR
きんちゃんさんと再度合流し、ブルベカード添付用の顔写真をコピーすべくスーパーに向かった。無事コピー機は見つけられ、小銭を投入してコピーをとれたはいいものの、まさかのお釣りが出ないタイプのコピー機。たまたま地元のおばあちゃんが後ろに並んでいたので、翻訳アプリを駆使して事情を説明し、すでに投入されている分をおばあちゃんに使わせてあげる代わりに現金で返してもらうことができた。おばあちゃんありがとう。
ついでにお昼ごはんを求めて物色。日本のコンビニやスーパーと違い、すぐに食べられるお弁当やお惣菜といったものは売っていない。ソーセージやハムの類も、加熱前提なのか生食可能なのか判断がつかなかったため、安全策としてパンだけ購入した。さすがに出走前日に冒険はしたくない。その後はコインランドリーの時間待ちがてら、きんちゃんさんから道中の土産話などを聞きつつ、のんびりと過ごした。
帰り際にパン屋に寄り、夕食を調達。PFCバランスもへったくれもない食事だが、やはり本場だけあってどれも美味しかった。その後はドロップバッグ受託に備えて荷物を整理し、0時頃に就寝した。
出走当日: ドロップバッグの受託と直前準備
8時頃に起床。昨日に引き続き快眠で、睡眠時間としても十分確保できているように感じる。朝食をクロワッサン、目玉焼きとハム、チーズ、果物でぱぱっと済ませ、ドロップバッグの最終確認をしてから少し時間があった。普段ならテレビをつけるところだが、当然フランス語の番組しか流れていない。スマホから音楽を流しつつベッドでゴロゴロしていた。走行中に使うつもりだったBluetoothスピーカーが予想外に役に立った。
ドロップバッグ預け入れ
グッディースポーツさんのドロップバッグサービスは預け入れ場所を4箇所から選べるようになっていた。私が選んだのはホテル最寄りのランブイエ駅前駐車場。10時半頃にホテルを出発し、徒歩で駅前へと向かった。気温はそれほど高くないが、日向を歩いていると汗をかく。昼間は夏用装備で十分そうだ。
ランブイエ駅前に到着すると、同じくドロップバッグの預け入れと思われる方が一人いらっしゃったのでご挨拶し、雑談しながら待つことにした。しばらくするともうお二人合流し、4人で待つことに。皆さん自転車で来られており、自然と自転車トークが始まる。その中のお一人のバイクはチタンフレームで、よく見ると前輪油圧ディスクブレーキ / 後輪リムブレーキというへんt……こだわり仕様! ただならぬ愛情が垣間見えるバイクだった。もうお一人は私と同じanchorのバイクに乗られており、ピンク&ブルースポークのLUN HYPERが特徴的だった。「やっぱこれくらいの時代のanchorが扱いやすいですよね!」などとanchorトークに花を咲かせつつ、気づくと預け入れ開始時刻の11時を過ぎていたが、周りにはそれらしき業者の姿が見当たらない。少しあたりを探してみると、ちょうど茂みで隠れていた別の場所にトラックが停まっていた。あやうく預け損なうところだったが無事受託に成功。お互いの無事完走を願いつつ解散した。
帰路では駅近くのパン屋さんに寄り、お昼ごはんを購入。出発前にもウェルカムミールを食べられるのだが、少しでもエネルギー補給しておいたほうが良いだろうということでサンドイッチを1つ購入した。ホテルに戻って早速平らげ、出発時間まで仮眠。このためだけに1泊分余分に支払っているのだ。
いよいよスタート地点へ
結局仮眠というよりはベッドでゴロゴロしていただけだったような気がするが、15時頃に起床し、荷物をまとめて輪行箱に放り込む。実は予約段階で輪行箱を預かってもらえないかメールで聞いていたのだが返信がなく、前日にフロントに聞いたところ1日25ユーロとのことだった。金取るのか……しかも結構な額……と少し考えたが、あの大きな箱を持って移動する手間を考えると1万円ちょっとをケチっても仕方ないと思い、ホテルに預けることにした。
今晩はもう泊まらない旨をフロントに伝えてチェックアウトの手続きを済ませ、自転車に乗って走り出す。機材も体調も良好。15時半頃にランブイエ城前の公園に到着した。事前予約制のウェルカムミールはスタートゲートの真東にある建屋で振る舞われる。到着したときには4, 50人ほどの列ができており、思ったよりも時間がかかったが、パスタにマッシュポテト、チキンなど、予想以上にしっかり食べることができた。
出走1時間前には集合するように、と言われていたのだが、少し遅くなってしまった。15分ほど遅れて待機列の方に向かうと、私のフロントゼッケンを見たスタッフの方が「お前Hウェーブだな、じゃあこっちだ!」と案内してくれた。盗難対策の意味もあるのだろうか、スタッフの方はゼッケンを見て案内してくれるのでありがたい。
待機列ではまず車検(前後ライト、反射ベスト)を受けたあと、少し進んだテントでブルベカードにスタンプを貰う。車検は日本のブルベほどしっかりしたものではなく、ライトが「付」いていれば*4OKといった雰囲気だった。これは担当スタッフのさじ加減なのかもしれないが。
出走スタンプを貰ったあとは、流れに身を任せてスタートゲートへとじわじわ進んでいく。途中沿道から日本人の方が応援してくださっていてとても勇気づけられた。
列はどんどん進み、いよいよHウェーブのスタート待ちになった。近くに日本人参加者の方がいらっしゃったので、雑談しつつ緊張を和らげる。そんなこんなしていたら、スタートのカウントダウンが始まった。
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