ブルベ発祥の地フランスにて4年に1度行われるブルベの最高峰、パリ・ブレスト・パリ。事前準備編では、憧れの舞台に立つために行った準備を備忘録的にまとめる。内容は思い出し次第追記していく予定。記事の末尾に、準備として行ったことを時系列でまとめてある。
PBPへの憧れ
2021年、コロナ禍の真っ只中で足を踏み入れたブルベの世界。N2BRMのため他の参加者と顔を合わせることはほとんどなかったが、それでも自分の脚で何百kmも走るということがただ楽しかった。あれよあれよと距離は伸び、気付けばどっぷり浸かっていた。
そんなブルベの中でも最大規模のものが、パリ-ブレスト-パリ、通称PBPだ。ブルベ発祥の地フランスで4年に1度行われるPBPには世界中のランドヌール・ランドヌーズたちが集まり、コース上の街もひっくるめてお祭りのような雰囲気のなか走るという。
そんなお祭りが2023年に控えている。日程的に不確実なところが多いが、もしかしたら走れるかもしれない。国内ですらまだ走ったことのない地域が多いのに、いきなり海外……? そんな不安もあったが、これを逃すと次は4年後。走力的にもスケジュール的にも、今後はどうなるか分からないし、何よりこれほどブルベを楽しんでいる今を逃すのはもったいない。PBP2023への参加に向けて少しずつ準備を進めるべく、東京~大阪キャノンボール研究さんをはじめ、これまでのPBP参加者さんのブログを読み漁っていった。
優先エントリー権獲得&SR取得
PBPのエントリーは2段階に分かれており、まず初めに出走ウェーブ等を確保するプレレジストレーション、続いて出走資格の登録をする本レジストレーションを行う必要がある。
プレレジストレーションは、前シーズンに距離の長いBRM・RMの認定を受けている人から順に受付される。エントリー枠を確保するだけであれば、通常は200 kmや300 kmの認定があれば問題ない。しかしPCや仮眠所での混雑などの理由から、早い時間のウェーブから順次埋まっていく傾向にあるため、お目当ての出走ウェーブがある場合にはBRM 1000 kmまたはRM 1200 km+(これらは同一に扱われる)を走っていると安心だろう。私は2022年GWにRM1350を走っていたため、エントリーは最速で行うことができた。
次に行う本レジストレーションでは、PBP開催年度のSR(Super Randonneur)資格が必要になる*1。ブルベでは11月から新しいシーズンが始まるため、オフシーズンに入る前の11月・12月で早々にSRを決めておいた*2。
AR日本橋さん主催 PBP勉強会への参加
都心発着のブルベを主催しているAR日本橋さん。私の初ブルベが日本橋200センテニアルだったということもあり、思い入れのあるクラブだ。2022年11月、そのAR日本橋さん主催で、PBPの勉強会を開催されるという。今回がPBP初参加となるため、少しでも情報を集めるべく参加申込をした。
当日登壇されたのは、なんと東京~大阪キャノンボール研究のサイト管理者のbaruさん。PBPに初参加する上で参考になる事柄を整理して講演してくださり、非常にためになったと同時に、PBP2023に向けてのモチベーションが跳ね上がった。
時は過ぎ、本番直前の8月初週に改めて日本橋さん主催の勉強会が開催された。こちらでもbaruさんの講演もとい講義を受けたほか、参加者同士でのフリーディスカッションの時間も設定されていた。単独参加である私にとって、ここでPBP参加者の方と顔見知りになれたのは非常に大きかった。
2011年から3度PBPを完走されている日本橋スタッフの方から、とても勇気づけられる一言を貰ったことをここにメモしておく。
PBP完走した時、必ず感動しますから!
航空券・ホテル手配
航空券は直行便と乗継便の選択肢があり、乗継便のほうが安く済む。しかし今回は手荷物として自転車を預ける必要があり、愛車には値段だけでは表せない思い出が詰まっている*3。そこで手荷物の扱いが最も丁寧であろう国内大手の直行便を取ることにした。単純に荷物の積み下ろしの回数が少ない分、破損・ロスバゲの危険性も下がるだろう。JAL、ANAの公式予約サイトで調べたところJALのほうが安かったため、往復ともJALの直行便を予約。出発11ヶ月前に予約して往復29万円だった*4。
ホテルも同時期に、こちらはexpediaから予約した。運良くスタート地点のランブイエ周辺のホテルが空いていたため急いで予約。ベストウェスタンアマリスというホテルだ。
出走前々日に現地入りし、前日に事前受付、出走当日もギリギリまで寝るために1日余分に予約。走行中の予約はせず、ゴール後に1泊の計4泊で57,000円(朝食付)だった。結果としてホテルの設備*5や立地*6は良かったのだが、期間中の荷物預かりに€25/日かかるということだったので、無料で荷物を預かってくれる他のホテルに比べると割高感が否めなかった。
走力面での準備
PBP前の主なライドは
- BRM503あおば1000酷 68h(レポート)
- BRM520たまがわ400石廊崎 19h
- 6/17 SR600富士 45h
- 7/9 大阪→東京キャノンボール 23h46m
- 7/16 回復走 150 km
- 8/5 機材最終確認 140 km
これらがどれほどPBPに直接役立ったかは分からないが、GWの1000 kmに関しては、フランスの8月末と気温帯が似ていたため、コンディション確認やウェアの検討の上で役に立った。
また、PBPに向けて簡単なダイエットも行った。それほど厳しい登りのあるコースではないが、1200 kmで11000 mしっかりと登ることに違いはない。しかも登坂ではドラフティングの効果が相対的に薄れるため、個人の脚力が如実に反映される。そう考えると、やはりPBPにおいても登れることは強みであり、ある程度の減量は有効だろう。不調を来さない程度に食事内容を見直し、2 kg程度減量した状態で臨んだ。
機材面での準備
普段のBRMから特段変更はなし。ただし、
- チェーンリング
- チェーン
- シフトワイヤー
は春のメンテナンスの時点で新品に変更済み。飛行機輪行のため、チェーンオイルは空輸可能なVipros muonに変更。1ヶ月前には
- タイヤ*7
- ブラケットカバー
も新品に交換した。その際にヘッドベアリングも綺麗にし、フレームの汚れも落としてバリアスコートを吹いておいた。せっかくの大舞台なので、できるだけ綺麗な状態で走りたい。
また、もし雨が降った場合、特に西部の牧場地帯で路面からの泥*8の巻き上げが酷いという噂を聞いたため、Flècheの際に購入した前後の泥除けを装備し、新しく蓋付きボトル(ELITE FLY MTB TEX 750 mL)も導入した。その他、右側通行に備えてテールライトを左2:右1に変更、左側バーエンドにミラーを装着した。
今回のPBPから、ブレーキレバーより前に伸びる、いわゆるDHバーの使用も許可されている。確かにPBPのような巡航可能なコースプロファイルでは有利なのだろうが、普段使っていないこと、重量増による登坂の負担の懸念、またいざとなれば上ハンに腕を置けば良いことから、DHバーの類は使わないことにした。
フロントゼッケン用マウント
PBPではフロントゼッケンとフレームバッジを取り付ける必要がある。フレームバッジはSR600のものと同様に、シートステー・シートチューブ接合部に取り付ければよいが、問題はフロントゼッケンだ。普段Rec mountを使ってVolt800・Volt400を逆吊りにしているため、フロントゼッケンの設置場所を新設しなければならない。既製品を組み合わせることも考えたが、それほど耐荷重は必要ないため、ホームセンターのプラ材で簡易マウントを自作することにした。Rec mountのネジで共締めする形でプラ板を伸ばし、その先にプラ棒を接着しただけの簡素な作りだが、ゼッケンをくくりつけるだけならこれで十分だろう。
アナログキューシート
普段のブルベではルート案内からコース上のお店の一覧まですべてgarmin頼みで走っているが、今回は万一のトラブルに備えてアナログ版の自分仕様キューシートを作成した。記載したのはWP・PCの距離とクローズ時刻、予定到着時刻。またルート上のフォトスポット、グルメスポットの他、お店やエイドがありそうな街をメモしておいた。走行中にトラブルが発生した際に、次の街までの距離が分かるだけで心強いだろうという考えだ。
これに加え、お守り程度の意味で方位磁石も付けておいた。夜間走行用のBluetoothスピーカーもセットし、ハンドル周りはいつもより豪華な雰囲気に。
サドルバッグ
フレームバッグやフロントバッグは付けず、荷物はすべてサドルバッグ周辺にまとめて走る。中身は
で、上部のバンジーコードに
- マリンシューズ
- プロテクトJ1
- 日焼け止め
- リップクリーム
を入れたナップサックをくくりつける。ここにはPC等でさっと持ち出したいものを突っ込んでいる。さらにサドルバッグの側面にステムポーチをくくりつけ、
を入れておく。ここであればいちいちバッグを開けることなく中身を出せるし、最悪走りながらでも取り出すことができる。この方式はSR600Fujiの際に試したもので、実用性が高かったため今回も採用した*10。
ウェア
GWの酷1000を走った際の気温帯は5-35℃だったため、このときの装備に準拠しておけばほとんどのコンディションに対応できるだろうと考えた。着替えのタイミングはドロップバッグの置かれるルデアックに限定される。基本的に西部ほど寒く東部ほど暖かい傾向があるので、ルデアック - ブレスト - ルデアックで最も寒い装備が必要になる。そこで、
ランブイエ - ルデアック往路
- 夏用半袖ジャージ(AJ PBP記念)
- 夏用ビブ(AJ PBP記念)
ルデアック - ブレスト - ルデアック
- 夏用ジャージ(AJ 400kmブルベ100周年記念)
- 春秋用長袖ジャージ(7ITA Cat walk)
- 冬用タイツ(パールイズミ ウィンドブレークメガタイツ)
ルデアック - ランブイエ復路
- 夏用半袖ジャージ(ACP PBP記念)
- 夏用レーパン(パールイズミ コールドシェイドメガパンツ)
これに加え、
- メッシュインナー(おたふく手袋 JW520)
- 裏起毛長袖インナー(おたふく手袋 JW170)
- 腹巻き
- 公式反射ベスト
の装備で臨むことにした。追加の防寒着はサドルバッグにあるレインジャケットやレッグウォーマーを使う。
プラダン輪行箱
飛行機輪行の方法としては以下のようなものがある:
上に行くほど防御力が高い代わりにサイズが大きく、値段も高くなる。最後の輪行袋は……上級者向けだろう。今回利用するJALの場合、手荷物の3辺の長さの和が203 cmを超える場合は2万円の超過料金がかかるため、現実的なラインとしては2か3となる。2の市販輪行箱自体も安いものではなく、2万円程度はするようだ。一方でプラダンは1畳サイズ5枚セットで5000円程度と安く、組立時の寸法もある程度自由に決めることができる。モノタロウで注文すれば自宅まで配送してくれるため、購入後の持ち帰りの心配もない。そこで今回は3の自作プラダン輪行箱で輪行することにした。作製にあたっては、Vさんの以下のページを参考にした。
プラダン輪行ボックス 203cm簡易版
製作に取り掛かる前に、自転車をある程度バラし、必要な3辺の寸法を割り出すことにした。プラダンの厚みなどを考慮すると意外と余裕がなく、結局ステムをコラムから外し、クランクをBBから抜き取ってなんとか外寸和203 cmに収めることができた(内寸97 cm x 68 cm x 32 cm)。フル外装のリムブレーキかつフレームサイズの小さい自転車*11でこれだったので、MやLサイズ、あるいは油圧ディスク、ケーブル内装等で分解が難しい自転車の場合には、203 cmに収めるのはほとんど無理なのではないかと思う*12。
自転車の養生は入念に行った。まずは通常の縦型輪行のように前後ホイールを外したうえで、追加で以下の点をバラした:
- ステムをコラムから抜き取る
- フロントブレーキキャリパーを外す
- クランクをBBから外す
- リアディレイラーをハンガーから外す
- クイックリリースをハブから抜き取る
その上で
- 外したパーツ類をウェスとビニール紐で養生、ガタつかないようフレームに縛り付ける*13
- フロントフォークとフレームを紐で縛る
- 前後にエンド金具を装着
- 出っ張っている部分にウレタンの緩衝材をくくりつける*14
- フレームにウレタンの緩衝材を巻きつける
- ホイールに購入時についてきたカバーを被せる
- 電子機器類はすべて外して機内持ち込み用鞄に移動*15
などの処置を行った。
組み立てに必要な六角レンチ、トルクレンチ、クランク取付用の工具(通称オレオ)とともに、抜き取ったクイックリリースを忘れないようにハードケースにしまい、プチプチで包んで輪行箱の空きスペースに入れた。その他、サドルバッグ、ヘルメット、シューズ、ボトルと、鞄に入り切らなかった衣類を収納。自宅での計測で3辺和202.5 cm、重量20 kgに収まった。
ドロップバッグ
前述のウェアの他に、電子機器類として
を持ち込み。またシャワー用のタオル、歯磨きセット、予備のエマージェンシーシートとカイロも入れておいた。その他、補給・医薬品の補充用に
を入れておいた。ボストンバッグはグッディースポーツの規定(50 cm x 30 cm x 30 cm)ギリギリのサイズのものを購入したが、補給が多すぎたのか、かなりパンパンになってしまった。
カレンダー
2022年
- 4/29-5/3 RM429東京1350日本列島half縦断(南)完走*16
- 9/28 往復航空券予約(JAL45/46便 HND-CDG エコノミー)
- 9/28 ホテル Best Western Amarys 予約(8/18-21, 24-25)
- 11/5 BRM1105たまがわ600鬼怒川 完走
- 11/12 BRM1112東京300朝霧高原 完走
- 11/23 AR日本橋 LEL2022報告会・PBP2023勉強会 参加
- 12/3 BRM1203東京400ぐるっと首都圏一周 完走
- 12/10 BRM1210東京400奥日立 完走*17
2023年
- 1/14 ACPのサイトよりアカウント作成、プレレジストレーション*18
- 3/28 グッディースポーツ ドロップバッグ申込
- 5/2 Audax Japan PBP記念ジャージ・ビブ購入
- 5/27 エントリー費€50振込
- 8/6 AR日本橋 PBP2023勉強会 参加
- 8/7 AIG損保 海外旅行保険 加入
- 8/18 羽田空港発
- 8/20 スタート
- 8/24 ゴール
- 8/26 羽田空港着
#2はこちら
*1:厳密には、本来SR申請に使用できないはずのBRM 1000 kmが使えるなどの差異はある。BRM 200+, 300+, 400+, 600+をそれぞれ1本ずつ認定されていればOK
*2:前年にSRを取得しておけば安心感は得られるが、安心しすぎてシーズン明けに走力が落ちきってしまわないように注意
*3:そもそも往路で破損やロスバゲするのはシンプルに困る
*4:時期を選べばもっと安く取れたのかもしれない
*5:エアコンあり、ドライヤーあり、全身シャンプーあり。冷蔵庫、電子レンジ、湯船はなし
*6:ランブイエ駅まで徒歩20分、ホテル裏に大規模なスーパーあり
*7:新品タイヤは路面のゴミを巻き込みやすいため、濡れ雑巾で拭っておき、できれば100 km程度慣らし運転をしておいたほうがよい
*8:婉曲表現
*9:DNFするつもりなど毛頭なかったので置いていこうかと思ったのだが、「こういう類の物は持っているからこそ使わないで済むのだ」という天の声が聞こえたため、サドルバッグの奥底に詰めておくことにした
*10:ステムポーチをステムに取り付けないのは、ハンドル周りの軽量化と、ダンシング時の膝との干渉の抑制のため。多少の空力改善効果もあるだろう
*11:センタートップ420 mm
*12:JALは一人2つまで荷物の預け入れが可能ということだったので、フレームとホイールを別々の箱に入れるなどすれば、大きいサイズの自転車でも超過料金無しで預け入れることができるかもしれない
*13:特にチェーンとチェーンステー、チェーンリングとスプロケットは入念に養生した
*14:特にディレイラーハンガーは破損事例が多いようだったので入念にガードした
*15:危うくVolt800の予備バッテリーをサドルバッグに入れっぱなしにするところだった
*17:2023シーズンSR
*18:日本時間22時の段階でG組は埋まっていたためH組でエントリー