城崎温泉(941 km) → 富山(1361 km)
目覚ましの30分前にすっきり目覚め、身支度を整えて朝食をいただく。松山で食べた天丼以来のまともな食事に気分も上がる。この宿は事前に予約することで但馬牛のステーキをいただけるのだが、今回の旅ではそんな時間的・体力的余裕もないため次回来たときのお楽しみかと諦めていた。しかしこの朝食に但馬牛の牛すじを使ったカレーがついており、しっかり但馬牛を堪能することができた。チェックアウトを済ませ出発の準備をしていると、宿のオーナーらしき方とお話することができた。この方もロードバイクに乗られているらしく、この周辺は山あり海ありの絶好スポットだとおっしゃっていたので、また機会があれば遊びに来たいと思う。
駅前で念のため注油を行い、10時半過ぎに京丹後に向けて出発する。ここからのラスト400 kmは前半がそこそこのアップダウン、後半は海岸線沿いの平坦基調のコースプロファイルとなっている。特に宿は取っていないが、残り時間は36時間もあるので、場合によってはがっつり休憩を入れても間に合う計算だ。城崎温泉を後にするとすぐに山岳地帯に入る。走っていると雨がぱらついてきた。いきなり濡れて蓄積ダメージを食らうのは勘弁なので、上だけでもレインウェアを着て走る。次第に雨脚が強まり、かなり降ってきた。空の感じから通り雨と判断し、近くにあった倉庫のようなところの軒先で5分ほど雨宿りさせてもらった。
雨はすぐに上がったので再び走り出した。細かいアップダウンをこなすと京都府に突入。しかし雨雲に追いついてしまったのかまた雨脚が強まってくる。一旦避難しようと海水浴場近くの軒先に入ったところ、地面に鋭利な砂が浮いており前輪がパンクしてしまった。予備チューブは初日に使ったものを含めて3本持ってきていたので新しいのを入れても良かったのだが、今回は穴が空いた箇所が明らかだったのでパッチで補修することにした。相変わらず空気量の少ないRoadie TTでポンプし、3気圧程度入ったところで再出走した。パンク修理をしている間に雨雲は行ってしまったので、以降は路面はウェットながら青空の下走ることができた。
途中道の駅てんきてんき丹後(980 km)で一度トイレ休憩し、再び走り出す。京丹後の日本海沿岸は海沿いといえども地形が複雑に入り組んでおり、3-5%ほどのアップダウンが連続する。ときにはちょっとした峠のような場所もあるが、おかげで高いところから海岸を見下ろすことができる。よく晴れてくれたので絶景を楽しむことができた。
伊根町に入り、ちょうど走行距離が1000 kmの大台を突破する。一旦海岸から離れ、内陸側を登っていたところTrek乗りのランドヌールに追いつく。この方、宇和島フェリーの臼杵港手前でお会いした(そしてTrySailを流しているのを聞かれた)方だ。城崎温泉で休みすぎたような気がしていたが、意外といいペースだったのかもしれない。そのまま下ると伊根の伝統的な街並みが広がる。ほどなくして遊覧船乗り場の特徴的な看板が見つかる。ここが6個目の通過チェックだ。
○ 通過チェック6 伊根湾めぐりのりば(1013.1 km地点) 5/2 15:41(81h41m)
気温も上がってきていたので売店でオリーブオイルソフトを購入。事前に調べた感じだと、ここから15 kmほどで天橋立がチラ見できるポイントがあるらしい。さらに10 kmで宮津の道の駅につく。せっかく海沿いを走っているので海鮮丼でも食べようと考えつつ再出走する。
伊根を過ぎてからは比較的平坦な海岸道路。城崎温泉の大休憩のお陰で快調に、しかし頑張りすぎずに回すことができている。ここで空が曇り始め、雨がぱらついてくる。これから夜になるため、ここで濡れて体が冷えると体力を消耗してしまう。体幹を冷やさないよう上だけささっとレインウェアを着て走る。ちょうど天橋立チラ見ポイントのあたりで一番雨脚が強く、本当に横目でチラ見しただけで通過してしまった(晴れていても同じ結果だったかもしれないが)。その先にあるシーサイドセンターは以前一度行ったことがあったので寄ってみたが臨時休業だった。その後雨はすぐに止み、幻想的な空を拝むことができた。
宮津手前で謎の登りをこなしトンネルを抜けると宮津市街に入る。この道はなかなかに渋滞していた。さっきの雨で路肩が荒れているのですり抜けはせず安全に進む。道の駅宮津(1040 km)にて一旦停車し、付近で海鮮丼を食べられるところを探すとショッピングセンターのレストラン街で食べられるらしい。迷わず入店し、ご飯大盛りでいただいた。
この時点で時刻は18時前、さっきの雨もあってこれからぐっと気温が下がることが予想されるので、レインウェアを着込んで出発する。ここからは舞鶴、高浜を抜けて70 km先の小浜(1110 km)を目指す。当初の予定では小浜のスーパー銭湯 濱の湯 で閉店の23時まで休憩する予定だったが、城崎温泉の出発を4時間ほど遅らせたうえ平均速度が着実に落ちていることもあり、到着して入浴するとあまり休めないまま再出発することになりそうだ。
そんなことを考えながら走っていると、突如「この先自転車通行禁止」の看板が現れる。特に迂回路の案内はされていないが、真横にそれらしい歩道があるので、おそらくここを辿っていけば合流できるのだろう。そのまま歩道を進んでいくと本線の上を渡る橋があり、木々の茂った林道につながっている。なにかおかしいと思いつつも進んでいるとグラベルセクションまで現れた。とうとう分岐に出たのでさすがに一旦停車してgoogle mapを調べると、完全にミスコースで、まったく関係ない山中の神社跡につながる道を走っていた。最初の歩道で本線沿いに進んでしまったのが間違いで、一旦海沿いに離れ、集落を通過してから本線に合流するのが正解だったらしい。パンクしないよう注意しながら林道を引き返し、なんとかコースに復帰することができた。
後から確認するとGPSのコースデータはおろかキューシートにも記載がなく、事前に調べる術もほぼない唐突な通行禁止区域であった。他のランドヌールはどうしたのだろうか? まともな人なら自転車通行禁止の標識を見た段階で地図を調べるのだろうか。林道部分は地味な上りが続いていたため無駄に体力を消耗してしまった。ただ、無駄に登った丘から見た夕空はそれなりに綺麗だった。
初の大きなミスコースをやらかしたので、体勢を立て直す意味も込めて由良(1050 km)のコンビニで休憩した。オロナミンCと杏仁豆腐を飲み込み、スティックパンをジャージの隙間に入れて再出走。由良を過ぎると完全に日が落ち、多少のアップダウンをこなしつつ西舞鶴、東舞鶴(1070 km)へと至る。この道中で何人かのランドヌールとスライドし、お気をつけてと声をかけあった。装備の大きさとGWという時期からして長距離と見受けたが、どうもAJ広島の舞鶴1000 kmの参加者のようだ。舞鶴からUターンするほんの一部分だけがスライド区間となっていたため、その後は見かけることはなかった。
東舞鶴では久しぶりに市街地を通過し、地元の高校生をよく見かけた。もはや曜日感覚が消失しているが、そういえば今日は5/2、何の変哲もない月曜日だった。しかしそんな市街地を走っていられたのもつかの間、すぐに丘陵地帯に入り、高浜に抜けてからはひたすら海岸沿いの道路を進むことになる。半ば無心でクランクを回し、22時過ぎ、小浜(1110 km)のコンビニに到着した。走っている間はあまり感じなかったが、止まると風が冷たい。当初ここでスーパー銭湯に入る予定だったが、この状況で風呂に入ってしまうと湯冷めで動けなくなってしまうことが容易に想像できた。大盛りのシーフードヌードルで温まり、冷えないうちに再出発した。ここで2枚目の貼らないカイロを開封した。
次の都市は45 km先の敦賀市だが、事前に調べた様子ではネットカフェなど気軽に泊まれる施設は見つからなかった。そのため確実に人権のある休息を取るなら小浜で探しておくべきだが、日が出てから再出発するならゴールまで250 km近くを17時間ほどで走らなくてはいけなくなる。普段なら余裕のペースだが(600 km以下のBRMの制限時間と同じ)、連日の疲労で平均速度が下がっている現状を考えると少しリスキー。そこで次の敦賀まで少しでも距離を減らし、あわよくばそのままオーバーナイトで走るつもりで出発した。
この小浜-敦賀間が予想外にきつく、100 m程度の山を2回も登らされた。また、地味にきつかったのが登り勾配のトンネル。これまでは元気だったから意識していなかっただけかもしれないが、福井に入ってからトンネル内が2,3%で登っていることが増えたような気がした。誰にというわけでもなく文句を吐きながら進んでいき、暗闇の関峠を越えてやっとの思いで敦賀市(1150 km)に突入した。ダウンヒルをこなしつつ街の様子を見てみると、徐々に建物は増えてくるが全体的になにもない。たまたまあったコンビニで一旦停止し地図を確認すると、どうも近くにコインランドリーがあるようだ。この時点で時刻は5/3午前1時過ぎ、さっきの峠でかなり疲労が来ていたのと寒かったので、パンとSavasを買ってコインランドリーに逃げ込んだ。短パンと未使用のインナーの上にレインウェアを着込み、それ以外をすべて洗濯機に放り込んで休憩する。暖房などはないが、風をしのげるだけでありがたかった。
硬い長椅子で寝ていると、ちょうど夜明けぐらいの時間に設備管理の人が掃除のために入ってきた。なんとなくいたたまれなくなり、荷物をまとめて出発の準備をする。気温は7℃まで下がって、外に置いていた自転車は結露していた。出てすぐのコンビニで朝食代わりのオロナミンCを飲み、気合を入れて再出発。やはり日が出ているとモチベも上がる。どうでもいいがマクドナルドの営業時間が7-23時だった。敦賀はもう少し大きい都市だと思っていたのだがそうでもないようだ。
敦賀港周辺の重厚なプラント群を抜けると海沿いのバイパス、しおかぜライン・漁火街道に入る。綺麗な景色ではあるのだが、若干向かい風が吹いているのと、40 km近くずっと見た目が変わらないためさすがに飽きてくる。尻と腰をいたわりながらダラダラと走る。そろそろ40 kmが長く感じるようになってきた。あと30, 25, 20, 15, 12, 10, ……とカウントダウンしながら走り、かなりへろへろで越前の通過チェックに到着した。ここまであまり人と会わなかったのだが、このコンビニでは3, 4人の人と会った(私が長居しすぎただけかもしれないが)。飲むヨーグルトとレーズンロール、からあげクンで朝食をとる。
○ 通過チェック7 ローソン越前海岸店(1192.7 km地点) 5/3 7:12(97h12m)
引き続き海岸の道路を進む。ここからは40 km先に三国の市街があるため、一旦そこで休憩することを目標にしようと考えていたが、さっきのコンビニで一気に食べたせいか、5 kmも進まないうちに眠くなってきた。ふと歩道を見るとちょうどよい位置にちょうどよい大きさのベンチがある。これは休むしかないとありがたく利用させていただいた。ヘルメットだけ脱いであおむけになると、バックポケットの諸々がうまいこと背骨を反らせてくれて簡易ストレッチのような格好になる。そのままものの数秒で入眠し、10-15分ほど眠った。消化が終わると眠気もすっきりし、何事もなかったかのように走り出した。
日が昇ってきて気温も上がってきたのでレインウェアを脱いで走っていく。次第にルートは海岸線を離れ、三里浜緩衝緑地という緑地公園の縁に出る。この道自体はまっすぐだが舗装がそれほど良くなく、じわじわと尻にダメージを与えながら走ることとなった。緑地横を3 kmほど進むと道の駅みくに(1230 km)があったため、一旦ここで休憩することにした。ここで食べたたこ焼きが疲れた体に染み渡った。
少々のアップダウンを越え三国市街を通過すると、芦原温泉で有名なあわら市を通って北潟湖畔に出る。程よく木陰のある景色の良いところで、団体でツーリングしている人も多かった。湖畔道路が終わるといよいよ石川県加賀市(1250 km)に突入。ちょうど追い風が吹きはじめた。時刻は5/3のちょうど正午、少し暑くなってきたためコンビニでアクエリアスとガリガリ君を買い休憩する。それにしても良い天気だ。
コンビニから少しアップダウンをこなし、以降は海から数100 m離れた平坦路を快走していく。さすがに高速巡航できるほどの元気は残っていなかったが、天気もよく時間的にも余裕があったため、のんびりサイクリングぐらいのペースで回すことができた。小松、松任と順調に歩みを進め、いよいよ金沢市街に入る。さすがに車が混雑しているが、迂闊にすり抜けなどしようものなら路面の凹凸でさらに尻ダメージが加算されてしまうのでおとなしく車列で待つ。金沢駅前(1300 km)でコンビニに入り、いよいよ富山に向けて最後の補給を行った。キレートレモンで疲労回復し、ゆず風味のまぜそばとレアチーズケーキで腹を満たす。同時に最後の区間のコースプロファイルの確認をしておく。ここを出るとすぐに3% 6 kmほどの山岳があり、これをクリアすればあとはほとんど下り基調。時間的にも明るいうちに富山市街に入れそうだ。道中はあれほど長く感じた60 kmだが、ここからの60 kmは最初の峠さえクリアしてしまえばあとはウイニングランも同然だろう。ひとつ懸案があるとすれば、京丹後でパンクして以来ずっと前輪が3気圧程度のまま走っているので、あわよくば次の登坂の前にどこかの自転車屋でフロアポンプを借りて走行抵抗を減らしておきたい。調べてみるとここを出てすぐのところに個人営業の自転車屋があるそうなので寄ってみることにする。
予想以上に大盛りだったまぜそばを平らげ、まずは自転車屋を目指して走り出すが、それらしい店が見当たらない。よく見てみるとそれらしき建物のガラスに日祝休業の張り紙がされている。残念。とはいえ別にこのままでも十分走れるので、そのままゴールに向けて出発することにした。市街地を縫っていくといよいよ登りらしい雰囲気の道が始まる。平均3%とのことだったが、感覚的には5%ぐらいの登りを2段階に分けて上るイメージだった。これさえこなせば終わりと思えば自然と脚も回る。途中ちらっと横を見ると、津幡市街と思われる街並みが広がっていた。いよいよ頂上のトンネルが見え、トンネル内で富山県に突入する。あとはもう下るだけだ。サドルの上で体をねじったりしながら尻と腰をいたわりつつ下っていく。砺波市、射水市と下り基調ののどかな道を駆け抜け、いよいよ富山市に入ろうという頃には視界の先に壮大な立山連峰がそびえていた。
ちょうど日も傾き、西日が自分の影を前に長く伸ばしている。郊外の幹線道路から中心部に入ると、富山名物の路面電車が走っていた。フィニッシュまであと3 kmもない。最後まで気を抜かず進もうとGarminから顔を上げると、眼前にそびえる立山連峰が夕日に染まり、これまでの道のりを締めくくるのにふさわしい幻想的な景色が視界一面に広がっていた。
これまでの苦労がこの一瞬ですべて報われた気がした。フィニッシュ地点のコンビニに到着し、店舗を間違えていないか入念に確認。Savasだけ購入してフォトチェックを行い、城崎温泉手前で連絡をくれた友人と、これから帰省する実家に無事完走の連絡を入れた。
○ フィニッシュ ローソン富山北新町店(1360.5 km地点) 5/3 18:33(108h33m)
撤収
予約していたホテルプライムイン富山にて輪行袋に収納し、部屋に入れさせてもらう。城崎温泉以降風呂に入っていなかったので、とにかくシャワーを浴びて着替え、夕食を食べに外に出た。しかし富山駅前は飲み屋街のようで、一人で入れるような飲食店が少なく、また時刻も21時を過ぎようとしていたので店も閉まり始めていた。駅前のロッテリアがまだ開いていたので、ご当地感はないなと思いつつも入店、パティとベーコンが3段重ねになった肉塊のようなハンバーガーをテイクアウトしてホテルで食べた。流石に疲れたので11時頃には寝てしまったように思う。
翌朝は7時頃に目が覚め、ホテルの朝食バイキングでお腹を満たしたところでチェックアウト。富山駅のお土産屋さんで昨日食べそこねたブラックラーメンとお菓子を買い、また昼飯用にますの寿司を買った。9:11発のはくたか511号で金沢まで、続いて9:54発のサンダーバード16号で京都まで帰ってきた。最終日に走ってきた道を車窓に眺めながら、長かったが、良い旅だったと思いを馳せていると、いつのまにか眠ってしまっていた。missing you / ClariSの心地よい歌声に包まれながら。